Fifteen Rebirth-生まれ変わり-



―――――暗闇を必死に隠そうとして―――――


―――――ぎこちない笑顔を見せる――――――――


―――――俺はただ、君の――――――――




―――――本当の笑顔が見たい――――――




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Fifteen Rebirth‐生まれ変わり‐
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第七話





腕にかかる水滴。

ポツ ポツ ポツ

「……雨、か…」

断続的に降る雨。
濡らしている。

『降ってきましたね』

何も喋ることはないのだろう。
マコトは、答えようとしない。
暫く、沈黙が続く。

「…なぁ、スケイル…」

耐え切れなくなったのか、マコトが喋りだした。

『はい?』
「俺たち、勝てるかな…」

思わず、弱音が出る。
らしくない。
どれだけ希望が薄かろうが、どれだけ自信が無かろうが、弱音を聞いた事は無かった。
それほどに、今までにないほどに不安なのだろう。
それでも、この場にとどまる。
そんな、律儀で重く捉える主に、竜はこう答える。

「…全て、全て貴方次第ですよ」




     #




前日。
連続的に見れば3日目となるその日。
午前中からシイルへと向かった。
ウリユに会うために。

『…朝っぱらから行っても迷惑だと思いますけど?』
「いやぁ…昨日約束破っちゃったから、早く行ってあげたいんだ」
『そうですか…そうですね、約束を破ったわけですし』
「…何だかとげが無いか…?」
『気のせいですよ』
「そうか…」
『朝一番に女性のところに向かうなんて聞かされて…ブツブツ』
「どうかしたか?」
『い、いえ、なんでもありませんよ!』

そんな会話もありながら。
そして、サーショの先の川を渡った後の森。
そこでの光景は、これぞ時間の賜物か、と言えるものだった。
大蛇は火を噴く前に切り捨てられ。
鳥は鉤爪を立てる前に焼かれ。
まるで相手にならなかった。

『(一日空けただけで…コレがマコト様の…)』

何度も言うが、マコトはスケイルというトーテムを宿す。
そしてそれが為す効力は、理力の強化。
決して、筋力でも無ければ生命力でもなく、敏捷でもない。
だとすると、コレはマコト自身のポテンシャルと言うことになる。
驚くべきは、その上昇率の高さ。
成長の早さ。
しかも、当の本人は、またしても

「う〜ん、食べれるならいいんだけどねぇ…」

物騒な事をこの上なく軽い口調で言い放つ。
天然なのか、何なのか。
明確な理由も付けられない恐怖に、スケイルは内心震えた。


丘の上。
物流が少ないのがさびしいが、のどかな街。
しかし、歴史上重要な街、シイル。
勿論、預言者がいる、という点でも重要ではであるが。

「おっ!マントのお兄さんじゃないか!」
「あぁ、どうも」

中央の井戸を通りかかると、水汲みをしている男性に呼び止められた。

「どうだい?やっぱり行く事ばれてただろ?凄いもんなぁウリユちゃんは―」
「いえ、言われませんでしたが…」
「え!?そ、そうなのかい?」

心底驚いた顔をしている。
よほどの的中率、むしろ外したことはないのだろう。

「そうかぁ…外れることってあるんだなぁ…」

そんなコトをつぶやく辺りは、自分の予想は確かだろう。

「あの、そろそろ…」
「あ、すまんね呼び止めて」
「いえ、それでは」

それで別れ、ユーミス堂へと向かった。

「あら、いらっしゃいマコトさん」
「え!?マコトお兄さん!?」

店に入った途端、ウリユの部屋に入ってもいないのに、ウリユの部屋から声が聞こえた。

「……」
「あらあら、ウリユったら…」

本当は、自分が来るのも分かっているのではないのか。
と思ったが、考えないようにした。
ウリユの部屋に入る。

「お兄さん、いらっしゃい」
「あぁ、こんにちは」

入ってくるなり歓迎の声が飛ぶ。

「ごめんなウリユ、昨日来れなくて…」
「え、そ、そんなのいいの。お兄さんも忙しいと思うし…」
「いやでも…」
「もう、お兄さん!!」
「え、あ、は、はい!!」
「言わないの、そういうこと!私はいいって言ってるんだから!!」
「あ、わ、分かった…」

諭されてしまった。
13~4歳の少女に諭される17歳。

(…何とも微妙な構図だな…)
『(恥ずかしいですよ…)』
(うっさい、言うな!!)

そんな逆ギレをスケイルにしながら。

「ねぇねぇお兄さん、旅のお話ししてくれる?」
「あぁ、良いよ。何から話そうかなぁ…」

「さぁ、お茶が入りましたよ」

それから一時間ほど、それこそ空けた一日の分を取り戻すように、3人とも饒舌に語る。

『この人、ホントに一人でトカゲの砦を落したんですよ』
「え、えぇっ!!?ホ、ホントに!?」
「え、あ、まぁ…」
「すっご〜い…やっぱりお兄さんってとっても強いんだ…!」
「え、いや、その…べ、別に…」
『そうですよ、私もちょっとびっくりしたんですからね?』
「うぃ!?そ、そうなのか!?」
『当然ですよ!ホントびっくりしたんですからね!?』
「と言われてもな…」

確かに、砦での事は驚くべき成長と言って良いものである。
しかし、マコト自身は普通にしているだけなので、疑問はない。
しかも当の本人としては事を成せれば問題ないわけで、その辺りの事をとっつかれても正直困る。

そんな会話が続いた。

そして、程よく時間も過ぎてしまい、お暇することとなった。

「お兄さん…行っちゃうのか…」

ぼそりと本音を呟くウリユ。

「ん?どうしたウリユ?」
「え、う…ううん!!お兄さん、気をつけてね!」
「あぁ…」

慌てて話をそらす。
来客を気遣いながら、努めて明るく振舞う辺り、ウリユは凄い。
そんな見当違いのことを考えていたマコト。

「また明日、ココに来るよ」

その気遣いへの礼としてではないが、そう答えた。
ウリユの顔が一瞬嬉しそうになる。

「うん、期待しないで待ってるね!」

が、次の瞬間には意地悪な顔に変わってそう答える。
昨日来れなかったことを暗に指摘されて正直参った。

しかし、そう言ったウリユの顔は、とても生き生きしていた。

それから、色々と回った。


寂れた一軒屋。
骨が転がっていた。
恐らく魔物に襲われた一つだろう。

『…やはり、こういう場所は悲しくなりますね…』

この家には、そのときまで団欒があったことだろう。
子どもがいたずらをし。
母親が怒り。
父親も怒り。
でも、全然迫力は無くて。
子どもが笑って。
母親が笑って。
父親も笑って。
皆笑って。

そんな、団欒が。

「…頑張ろう、スケイル」
『はい』

そう、誓った。


とある一軒家。
そこは魔物に襲われた形跡は無い。
鍵がかかっているようだったが、リーリルのおじさんから貰った鍵であっさり開いた。
入ってみると、まず目に入ったのは、大量の本。
その中を調べてみると、どうやら、大賢者サリムの別荘と言うところだろうか。
その中をくまなく探してみたが「我が血を受け継ぐ者へ」と書かれた一冊の本と、どこかの地図だけだった。
あとは…太陽の剣は余程大変だったのだろうということと。
シズナさんが、実は50年前の人だったってことだ。

『んなワケないでしょう!!』

と、後者を冗談で口にしたらそう言ってスケイルに締め上げられた。


世界の果て。
その手前の街。
街の中央には、何だかおかしな祭壇のような場所で婆さんが祈っていた。
聞けば、勇者がこの場から降臨する、と言う。

その隣で、孫らしい人がぼやいていた。
「いつまで信じてるんだろう…」とか言って。

『もしかして、私たちのことではないですか?』

スケイルが言った。

もちろん、それも思った。
自分は、正真正銘神に依頼されている。
リクレールという、この世界を作った神に。
それに言い伝え等には、間違いが含まれる。
文献にすら残っていないとなれば、なおさらだ。
クイズ番組でも、最後に伝わる頃にはまるで違っていることが殆どである。
降臨場所の違いなど、普通にありえそうだ。

だが「そんなはずは無いだろう」と否定した。

自分は、そこまで期待されるような人物では無い。
そんなに力もあるわけではない。
自分のやるべきことを考えるだけで精一杯だ。
今やっておくことを念頭に入れ、それを実行するだけで精一杯。
勇者、と言えるような事は何かしただろうか。

『そんなことないですよ』

スケイルは、そう言ってくれた。
少なくとも、自分のトーテムはそう言ってくれている。
なら、少しはそうではなかろうか、そんなことも考えたが、やはり違う、と思った。


世界の果て。
何故かそこに洞窟があった。
興味本位で探検すると、そこは理力が全く使えなかった。
なのにやたらと硬い外殻を持った蜘蛛が大量に湧いて出た。
普段理力は補佐程度にしか使ってなかったためあまり意味は無かったが、燃やせればどれだけ楽か分からない。
改めてフォースのありがたさが身に沁みた。

只、途中、床に変な爪が落ちていた。

『こ…これは!クリムゾンクロウ!!』
「…栗無損苦労…?」
『…なんでそこでワケの分からない変換をするのですかマコト様?』
「なぜ会話での誤変換に気付けるのさ」
『…作者のネタの希薄さに言ってください』

最後の答えは疑問符が付いたが、兎にも角にも話を進めることにした。
『クリムゾンクロウ』
炎の理力を秘めし爪。
かつての大賢者サリムも愛用したとされるこの爪は、自らの理の深度に比例して攻撃力が上がる。
筋力に影響されないのだ。
しかも、炎。
詰まるところ、フォースの消費無しで、無限に火炎が使える。
そんな、適正な者が持てば極めて恐ろしい物をマコトは手に入れてしまったのである。
まぁ、当の本人は

「え、疲れずに火炎が使えるの?…便利だなぁ〜」

程度にしか思っていないのであるが。

外に出ると、日が変わっていた。

「4日目か…早いもんだな」
『そうですねぇ…もうこれといってアドバイスも無くなってますし…』
「え、そうなのか?」
『えぇ、むしろ私が驚かされてばかりですよ』

そんなやり取りをしながらリーリルまで戻って、数時間の仮眠を取った。




     #




「…は?」

思わずそんな疑問符を投げ掛ける。
しかし、答えを期待したものではない。
受け入れられない事に対する抵抗、とでも言えば良いのだろうか。
要するに、信じられない。
そういった感情が表れた結果である。

「もう一度言います。
 今夜、この街は、魔物の襲撃によって住人諸とも滅びます。」

今朝方、リーリルで仮眠を取った後にサーショに寄って行き、それからシイルへと赴いた。
そして到着するなり、入り口に人だかりが出来ていて、そこに割って入るという経緯を経て現在に至る。

「コレが、私の娘、預言者ウリユが見た物です」
「皆死ぬ光景も…か?」
「えぇ…」
「…じゃあ、どこへ逃げても変わらない、ということか…」

そう呟いたのは、井戸の前にいた男性。
落胆しているが、仕方の無いこと。
そう認識している。

何を、言っている…?
マコトは思わず、ユーミスに詰め寄る。

「ユーミスさん!!そ、ソレは本当なのか!?」
「え、は、はい…確かです」
「そ、そんな馬鹿な!だって、昨日まであんなに穏やかで…!」

『マコト様、落ち着いて』

興奮気味のマコトをスケイルが嗜める。

「落ち着いていられるか!!」
『マコト様、戦争というのはそういうものです。
 ついさっきまであった平穏が戦場に変わる、さして珍しい事でもありません』
「……っ!!」

確かに、戦争とはそういうものである。
戦火に巻き込まれて滅んだ一軒家を見たときから分かっていた。

その、つもりだったのに。

受け入れられない。
いや、ソレより何より、諦めていることが許せない。

「あんたたちも!!何で、敵わないにしても逃げれば良いじゃないか!!」

今までウリユから聞いてきた事を無視するように、声を張り上げる。
興奮で完全に失念していた。

「無駄です。娘が、“皆が死ぬ”場面を“見た”のなら、場所が変わろうと結局同じ事。
 …そのことは、娘が辛そうにお話したはずですが?」

咎めるような口調でユーミスが答える。
その言葉にマコトはハッとする。

「…マコトさん…娘に、会ってやってください…
 貴方に、一番貴方に会いたがっていますから…」

辛そうな表情でそう告げる。
マコトは、黙って頷いた。
色々と思うところはあったが、まずは会わないといけない。
そう思い、ウリユの部屋に向かう。

(そんなの…そんなこと間違いだ…!)

そんな思いもありながら。



「あ、お兄さん…」
「こんにちは、ウリユちゃん」

辛そうな、それでいて諦めたような顔をしている。

「もう、聞いたよね…?」
「……あぁ」

予言の事だろう。

「…本当に、見たのか…?」
「うん…」
「死ぬところも、か…?」
「うん、そう…」

ぽつぽつと答える。
うつむいた状態のままだ。

「だからね、今日でお別れ!」

急に顔を上げ、笑顔を見せる。

「だって、お兄さんの死ぬ場面は見てないもん。
 だから、お兄さんは逃げて」
「……」
「逃げたら、絶対に助かるから」

逃げる?
何を言っている。
出来るわけ無いじゃないか。

「…見てないんじゃ無くて、見えないんだろ?」
「え?」
「俺の未来は見えない、そうだろ?」
「う、うん…」

真正面から真摯に見ているマコト。
その決意に満ちた瞳。
それを見て、とてつもなく悪い予感に駆られた。

「なら、俺が関与した場合の未来はまだ無いわけだ」
「…だめっ!!!」

思わず叫ぶ。

「見たのは、とっても強そうな魔物だった!!いくらお兄さんでも無理だよ!!!」
「でも、やる価値はあるだろう?」
「だめだよ!!お兄さんまで死ぬ事無い!!」
「…まで?君たちはどうなんだ!!」
「私なら平気だもん!!」
「平気、か。本当に?」
「本当に大丈夫だもん!!私なら、分かってるから覚悟も出来るもん!!」

早口で感情的にまくし立てる。
今までにそんなウリユは見たことが無い。
そのウリユに、マコトは落ち着いた風に返す。

「なら、何故泣いているんだ」

まくし立てたウリユ。
その頬には、涙が伝っていた。

「だ、大丈夫だもん…わ、わたしは……!」

ぐしぐしと袖で涙をぬぐいながら必死に抗議する。
が、涙はとめどなく溢れてくる。

「ほ…ホントに…だいじょうぶ…」

見ているほうが痛々しいほどの無理をしている。
そんな彼女の顔を、マコトは胸にうずめた。
そして、なだめるように優しく後頭部に手を置く。

「うっ、ふ…あ、あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

抑えていたものが吹き出したのだろう。
彼女は声を上げて泣き出した。
未来が見える預言者といえど、13、4歳の少女。
死ぬ事に対して、恐怖がないことなどありえないのだ。
さらには、自分がそれを予見したのである。
どれほどの重責で、母親に伝えたか分からない。

(こんな子を…こんな良い子を死なせる…?
 出来るわけ無いだろ)

未だ泣き続けるウリユをなだめながら、そう決意した。




     #




現時刻、23:56。
マコトは、シイルの街手前の、細い谷の入り口で座り込んでいた。
無論、やってくる魔物を返り討ちにするために。


「…来たか…」

正直、怖い。

恐れはある。

『ざっとみて…6~7人、というところでしょうか』

けれど、それを押しのけてまでココにとどまらせる理由がある。
理由はそれ以上無いほどに単純で、もしかしたら幼稚かもしれない。

「…感じるか?」
『えぇ…あの、一人だけ色が違う竜人ですよね?』
「あぁ…俺みたいな素人でも分かる…アイツは強い…」

それでも、それ以外の理由なんて、浮かばない。

「…よし、行くぞ!!」
『はい!!!』

不謹慎かもしれない。


街の人を守るより、こちらが優先するなんて。

でも、俺は。


彼女の鎖を取り払って。




あの子の、本当の笑顔が見たい。












            ――――ワタシニカテルトオモッテイルノカ・・・?――――



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えぇっと…またも放置気味でしたね;
第7話です。マコト君はやはり遠慮しがちな、控えめな性格ですね。
でもやることはきっちりやるというか…決めた事は一気に取り組むというか…ホント、書いている私が見習いたいです^^;

情景に当てはまる文が浮かばずに、長ったらしいくせに単語は幼稚な、見るも無惨な出来になってしまいました…orz
…コレで本当に大丈夫か私…最近言語中枢がヤバめです;
え、いやこれは終わらせますよ?…どれほどかかろうとも!!(うゎ



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