Fifteen Rebirth-生まれ変わり-



―――――あの男は、なんなのだろう―――――


―――――思えば、最初に見たときからそうだった――――――――


―――――どうも、あの男はよく分からない――――――――




―――――……かといって、嫌いと言うわけでもないが…―――――――




================
Fifteen Rebirth‐生まれ変わり‐
================








第六話






「……」

未だに気力が戻らない。
自分の右手を見つめる。

「はぁ……」

見るたびにため息が出る。

「私は、誰なのだ…」

そう喋ったのは、セタ。
竜人の砦の副隊長、だった、竜人。
今や、竜人でもないが。

それと言うのも、10分前。


『それなら、問題なかろう』

『……し、しかしこれでは…!私は竜人では!!』

『何を言う、よく見ろ』
そう言ってもう一度鏡を持ち出す。

『?』

『おまけとして、耳は元のままだ』

『……』
何がおまけなのだろう。
とてもげんなりした気分になっていた。
本来の目的からしたら、“これ”は足枷でしかない。
ニンゲンの偵察という目的からすれば。

『私はバーン城の王として毎日ニンゲンどもをじわじわと弱めているのだ。
 この程度やってもらわねば困る』

『は、はぁ…』

『能力的にも変わりはしない、それに…』

『?』

『この私にグダグダ言って、どうにかなるとでも?』
急に凄味が増した。
ふざけているように見えて、そこは魔王である。

『い、いえ、し、失礼しました!』
その威圧感に気圧されて、言葉が再び硬くなる。

『よろしい』

『それで、期間及び場所は…?』

『(コイツは反応が面白いからな)ん、あぁ…そうだな…ここから一番近い…リーリルだ』

『リーリル…』

『期間は、今回は今日だけにしてやろう。
 脅威となるヤツがいるのなら…近付いて、殺してこい』



「……殺してこい、か…」

再び右手を見つめる。

(脅威となる者…マコトのこと、なんだろうな…)

ため息を再びつき、立ち上がった。

「言ってる暇は無い、行かないと」

そうして、耳のヒレ隠しのフードを被り、出発した。




     #




「じゃあ、お願いします」

パタンとドアを閉める。


「これでよし、かな」

『そうですね、これでエージスさんも助かりますね』


現在地、リーリル。

現時刻、14:23

森で出会った竜人の子供―テサといったか―を助けた礼として、砦で戦った竜人、セタから貰ったマニミア草を届けたのである。
飲ませた途端顔色がよくなり、クラートも、持ってきたマコト自身も驚いていた。
数日すれば完全に体調が戻るだろう、ということだった。


「さて、これからどうするかな…」
そんな時だった。



「…すまない」

そう、声を掛けられた。

「ん?」

振り向く。
フードを深く被った、恐らくは女性であろう人が立っていた。

「案内してもらえないだろうか」

そう言って、少し顔を上げる。





その顔を見た瞬間、絶句した。











別れ際のあの顔が焼け付くように頭に残っている。



あの、悲しみに満ちたあの涙。


それ以外の、色々な表情。


フードの隙間から覗く、細い黒髪。








「綾香…綾香なの、か…?」


間違いない。



フードを被っているが、間違えるはずは無い。
数日前(感覚的に)まで、10年以上見続けてきた顔なのだから。



しかし、その女性はこう言った。

「アヤカ…?」

その一言で、目が覚めた。


「(そうだよな…いるはずは…)あ…す、すいません…知人に似てたもので…」

逆に、こちらの世界にいてもらっても困る。
自分がいるここは、元いた世界とは別の世界。
あの世界との“縁”が途切れた者だけが、リクレールによって呼び出され、初めてココに存在する。
要するに、向こうの世界での“死”を意味する。
それはマコトとしても望む形ではない。

「『知人…?』」

女性のみならず、スケイルまで反応を示した。
しかし、あまり深く話しても仕方が無いし、打ち切る事にした。

「あぁ、こちらの話です。それで、案内して欲しい、とは?」

『…話を逸らしましたね?』
「(後で話すから!)」
念じてその意思を伝え、話を続ける。

「あ、あぁ…そうだった。
 いや、最近旅を始めたばかりで、ココには初めて来るものだから…できれば案内をしてもらえると助かると思って…」

「あぁ、なるほど」

『…どうします?』

「うぅん…どうしたものか…私たt…私もここに来たばかりでよく知らないのですよ」

『まさか引き受けるんじゃないでしょうね?
 私たちは、時間が惜しいのですよ?』

「…あ、そうだ!一緒に回りませんか?」

「…えっ…」

唐突な提案だった。

「理力屋でフォース等の助言をしてくれるととてもありがたいんです。
 結構強そうに見えますし」
『フォースなら私に聞いてくださいよ!これでもフォースは詳しいんですよ!?』

「ところで…後ろで浮かんでいる…竜が何か言っているようだが?」
「あぁ…気にしないほうが………!?」
『!?』

ココで気付いた。

「え…見えるんですか…?」
『私の声も…?』
「あぁ…これがトーテムとかいうものか…見たのは初めてだな…」
『見えるほどのトーテムはそうはいないでしょうしね。それに喋るとなれば…うふふふ』

なにが面白いのか。
リクレールお手製のトーテムで、他のトーテムよりも有能であることを思い、それが嬉しかっただけなのだが。

(大丈夫かコイツ)
(急に笑い出した…何だコイツは…大丈夫か?)

そんなコトはまるで知らない二人。
図らずも意見が一致した。

『ハッ…!…ン、ンンッ!!』

正気に戻り、恥ずかしげに咳払いするスケイル。
そしてこう続けた。

『ま、まぁ、トーテム持ちならフォースについても聞けるかも知れませんしね。
 マコト様、とりあえず回ってみましょう』

淡い翠色の頬が心持恥ずかしさで赤くなりながら喋るスケイルを見ていて、マコトは笑いを必死に堪えていた。

「…っあぁ、い、行こうか…ぷくく…」
『ちょっと!!何がそんなに可笑しいんですか!』
そんな光景を見ていたセタも、思わず笑ってしまった。
「…ふふ…面白いな」

そう言ってクスクス笑っている。
その笑顔は、とても自然なものだった。
“彼女”と同じ顔で。

「あ、じゃあ行きましょうか」
「あ、あぁ…よろしく頼む」

そんなやり取りで、理力屋に向かった。




     #




「そういえば、名前は何と言うんです?」

理力屋へと向かう途中、そう尋ねた。
当然といえば当然である。
自己紹介を全くしていなかったのだ。

「私はマコトというんですけど…貴女は?」
「え、あ…そ、その…」

何気なく尋ねたつもりだったが、セタにとっては困る質問だった。
この姿の名前を考えていなかったのだ。
セタという名前をそのまま言えば、ほぼ(むしろ完璧に)バレる。
なにせ、今朝方彼に名乗ったばかりなのだから。

(どうしたものか…)
「わ、私は…」


困り果てた瞬間、ふと出てきた名前があった。

「…アヤだ」

ふと浮かんできたのが、それ。
先ほどマコトに間違われた名前をもじった、というか“か”を消しただけ。
明らかに苦し紛れだ。

(何故にこんなものしか出ないのだ私は…)

改めて、自分の創造性のなさに落胆を覚えた、が。

「アヤさんですか…分かりました」

マコトはあっさりと認めてしまった。
彼はふと思ったのだ。
この世界が、自分の居た世界と少なからず繋がっているかもしれない。
そうなれば、彼女も少なからず関係性をもっているのかもしれない。
何せ、顔がこれほどまでに似ている。
ならば、名前が似ていても不思議ではない。
それで無くとも元の世界でも、同姓、同名は存在する。
なので、すんなり通ってしまった。

「あ、あぁ…そうだ。あと、敬語もできたらやめてもらえるとありがたい」
「……分かった、よろしくな、アヤ」
「あぁ」

こういうところでの切り替えは早いマコトだった。




     #




(どうしたモンかなぁ…)

心中で思うはマコト。
彼の周りには、子供たちが群がっていた。
実はあのあと、急に女性に声をかけられたと思ったら、流れるままに理力学校でのフォース実演に出ることになったのだ。

「ね〜、この人〜?」
「ねぇねぇ、あの砦落としたんでしょ?母ちゃんから聞いたんだ!」
「あ、あぁ、そうだよ」

どうやら、すでにリーリル中に広まっているようだ。
マコトがトカゲ砦を攻め落とし、尚且つそれがたった一人で、ということも。
それが、余計に子供たちの好奇心を煽っていた。

「えぃっ!」
「あたっ!!」

ある子供からは蹴られた。
どれほど強いのかの確認なのか、少年期における、存在の大きい同姓への反抗心なのかはわからないが。

「わぁい♪」
「ちょ、苦し…マント引っ張るなって!」

ある子供は抱きつこうとした。
届かずに紺色のマントが全体重を乗せて引っ張られる形になったが。

「は〜い、授業を始めますよ〜」

このままだとワヤクチャにされそうなところで、丁度良く、先生が号令をかける。
ようやく開放された。

『大丈夫ですか?』
「大丈夫か?」

開放されてから、ねぎらいの言葉がかけられる。

(お前ら…覚えてろよ…)

傍観者に徹したアヤとスケイルに心中で毒づいた。
その間に、講義は始まった。

「さて皆さん、もうココにいる人はだれか分かっていると思います。
 そう、この近くの砦を落とした、マコトさんです」

「「「「おぉ〜!!」」」」

「でもそうは見えないよね、弱そうだし」
「ちょっとカワイク見える〜♪」

馬鹿にする者やマセた者など、皆口々に言いたい放題である。

(…チッ)

ニンゲンになっているとはいえ、自分のいた砦を落とした事で持て囃される者を見るのは、決して気分の良いものではなかった。
彼女自身が止められなかったこと、それが余計に苦しかった。
無論、表に出せない事も。

「さて皆さん、先週は、初歩的なフォースについての知識を勉強しましたね?
 今日は特別ゲストとして、マコトさんにフォースを実演してもらいたいと思いま〜す!」

「「「「はーい!」」」」

「…ホントにやるんだ」

どうも乗り気でないマコト。
不思議そうにスケイルが見ると、彼が心の中で語りかけてきた。

(やっぱ…3つしかないって言ったらがっかりするよな…)
『(そんなコト無いですよ。マコト様のフォースの威力は半端じゃないんですから。
彼らすぐに驚きますよ)』
(だといいんだが…)
教育者は、他人より専門的な知識が無いとなれない。
マコトの、教育者という観念からすれば、自分がココに立っているのは間違いである。
何せ、フォースを使えるようになったのは二日前なのだ。
その事実が彼を躊躇させていた。

「マコトさん?」

「あ、すいません…えぇとですね。
 私は、まだフォースを満足に知りもしません。知っているフォースと言ったらまだ3つしかありません。
 まずそれを謝ります」

「え〜、3つだけ〜?」
「…ホントにトカゲ砦落としたの〜?」
「やっぱウソじゃないの?」

それら多種多様な非難を浴びながら、それでもマコトは声を続ける。
「なので、見せられるものと言えば、『火炎』『治癒』『剛力』のみです。
 まずは…『火炎』、ですかね」

そういうと、開け放っている窓のそばまで歩いていく。
マコトの見つめる先には、一本の木がある。

「アレを良く見ていてくださいね」

そういうと、目を閉じて、外の木に向けて掌をかざした。
暫く沈黙が続く。

『火炎』

抑揚のない声が響いた瞬間、マコトの掌から、圧縮され、なお極大なエネルギーが放出、直撃。
一瞬で木は炭と化した。

みな固まっている。

アヤも目を見開いたまま固まっていた。
(これが…これが本気か…やはりコイツは……!)

未だ皆が固まる中、マコトが目を開いた。

「これが、私程度でも使える『火炎』です」

やさしい微笑みで、すんなり皮肉を言う。
本人は、そのつもりではないのだが。

ドタ

「いたた…」

力が入らなかったのだろうか、女の子が一人、つんのめって膝をすりむいていた。

「じっとしてて」

そういうと、マコトはしゃがみ込んで患部に手をかざす。

『治癒』

唱えると共に、怪我が治っていく。
ものの数秒で、完全に直ってしまった。

「す、すっご〜い!!」

それを見て、その女の子は目を輝かせていた。

「やっぱこの人だよぉ〜!」
「俺、火炎見たの初めてだよ、あんなにすげぇのか!!」

子供たちの目が、一瞬にして尊敬の眼差しへと変わる。

「そういえばさ、一緒に来たお姉さんは何かフォースでも使えないの?」
「わ、私か!?」

突然指名されて戸惑う、が、キッチリ答えるところはさすがに律儀である。

「私は剣技ばかりだったからな…治癒も剛力も彼が見せたし…あとは『守護』だけだが」

そう言って、集中する。
正直、この体で使えるのかは疑問だったが、言っている暇も無い。

『守護』

淡い蒼の光がアヤを包む。
そして目を開いた。

「コレが守護だ。防御力が上昇する。少々の攻撃なら何ともない」

「おぉ〜」
「ホント〜?」

感嘆や疑問を上げながら、触ってくる。

「ホントだ〜ちょっと硬いね」
「だろう?」
「じゃ、ココは?」

そう言って脇腹をつつく。

「ひゃふっ!!」

ビクンと反応する。
脇腹は弱かった。

「あ、これは違うんだね」
「みたいだな。感覚まで消せるわけじゃないって事か。このお姉さんは脇腹が弱いらしいね」

いつの間にか、マコトも加わって話している。

「む、むぅ…」

真っ赤になって言葉を濁すアヤを、クラスの朗らかな笑い声が包んだ。




     #




『マコト様、あんなところにお金が!!』
「なにぃ!?とうっ!!!!!」

ダポーン。

そんな水飛沫を上げて水路へと華麗なダイブを決めたのは、勿論マコト。

「…はぁ…」

その様子をあきれた顔で見るアヤ。

(何なのだコイツは…)

今のように、飛び込んだり、珍しい物を見て目を輝かせたりなど、とても子供っぽい部分が多々ある。
それでいて、集中すると顔つきは熟練者のソレになる。
そんな妙な人間に振り回されていた。

無論今のは、マコトのサイフ事情によるものなのだが。

ザパァ

マコトが上がってきた。

「アヤ!500シルバ見つけた!!」
「…ソレだけのために飛び込んだのか、やはり…」
「何言ってるんだ、500シルバだぞ500シルバ!!大金じゃないか!」

マコトは満面の笑みを浮かべている。

「…ぷっ」
「?」
「ふふ…はははははは!」

なんだか可笑しくなってしまった。
暫く笑っていた。

(…面白いな)

嫌いと言うわけでもなかった。
自分がやると決めた事に対して、まっすぐに取り組める。
自分の興味があることに食いつく。
要するに、純粋なのだ。
それを、短いながらもアヤは感じ取っていた。



ゾクッ

急に笑顔が途切れる。

『脅威となるものが居るのならば…殺せ』

言葉。
鎖のように離れない、あの言葉。
そんな、見えない圧力。


(そうだ、私は…)


偵察及び、危険対象の排除。
それが、自分の目的。
ローブの下を探り、隠し持っていた短剣の柄を握る。
今マコトは、水路に向かい、拾った500シルバを入れている。
つまり、自分に背を向けている。

(今なら…!)

短剣を振り上げる。
そうして、振り下ろす、その瞬間。

(「分かった、よろしくな、アヤ」)

敬語をやめてくれ、と言ったときのことだ。
そのときの、しがらみや遠慮を取り払った顔が浮かぶ。
今日一日だけだったが、自分でも体験した事の無いことばかりだった。
何より、我らと変わりはしない。

(こんなニンゲンを…殺せと仰るのですか…?)

しかし、彼が脅威であることにも変わりは無い。
戦力的に、全て覆される可能性がある。
ソレは分かる。
だが……

「アヤ、次どうす―――――」

戸惑っている間に振り向く。


ドン


「へ…?」
「あ、わっ…」

いきなり振り向かれた事でどうようしたのか、勢い余ってしまった。
慌てて短剣を離したが、体の制動が利かず、前につんのめる。
水路へと落ちそうになる。
しかしマコトは素晴らしい反応で体を捻り、後ろ向きを横向きへと変える。

「あだっ!!」

結果。




マコトの上に、アヤが覆いかぶさる。

ドクン

「いってぇ…」


ドクン

(な…)

マコトの胸に自分の体を預ける形になる。

(な、なななな…)
「おい、アヤ…大丈夫か…?」
「あ、あぁ…」

大きい。

厚い。
それでいて、熱い。

(何なのだ、この感覚は…)

「お、おぃ…」
「ん…?」
「退いてくれるとありがたいんだが…」
「あ、あぁ!!す、すまんっ!!!」

慌てて飛びのく。
先ほどからほのかに赤かったアヤの顔が、今では真っ赤である。

『……楽しそうですねぇ』

そんな状況を恨めしげに見つめるスケイル。
その目からは、異様な負のオーラが滲み出ていた。




      #




「ふぅ…」

ため息をついたのは、セタ。

トカゲ塔へと戻ってきていた。


『いいのか?』
『あぁ、大丈夫だ、ソレに私は只の旅だが、マコトは別に目的があるだろう。
 一緒に居ても、どうしようもないだろう?目的が違うのだから』
『…それもそうだな。
 ちょっと、アヤと戦ってみたい気もしないでもないけど』
『バカを言うな、お前に勝てる気はしないよ』
『え〜?』
『じゃあな、マコト。ソレに、スケイル』
『え、あ、はい』
『じゃあな、アヤ』

『…また、どこかで会おう』



そう言って別れた。
思い出して、微笑む。

(また会おう…今度は、敵として…)

そう考えているうちに、魔王の前へときていた。
跪く。

「戻ったな…それで、どうだったのだ?脅威となりうる者はいたのか?」
「最も反映しているリーリルですが、それほどの者はおりませんでした。
 理力の学び舎もありましたが、成果は殆ど無いようです」
「そうか…と言うことは、お前の言う、砦を一人で落としたとう者も居なかったのか」

その言葉に、ドキリとした。
今しがた、別れてきたばかりなのである。

「ならばいい」

だが、その不安も気取られずに済んだ。

「お前のみが知っているのだ。
 それほど強力なニンゲンならば、近いうちに会えそうだ…」
「?」
「あぁ、お前には言っていなかったな。近々、預言者を潰すのだ。
 シイルの街へと、私が直々に、な…」

そう言って冷笑を浮かべる。
その姿は、戦慄という一言が相応しい。
絶対に、敵には回したくない。
仲間であるセタですら、そう思っていた。

「と、ところで…この姿どうにかなりませんか…?
 尻尾も無ければ、目線も違う…慣れません…」

その恐怖を誤魔化すつもりで言った。
そのつもりだったのだが。

「あぁ…それなんだが…」

「?」

急に口籠る。
さっきまでの威圧感もどこ吹く風である。

「すまん、戻し方忘れた…」

「…………へ?」

「いや、良く考えれば、私は戻るときは感覚的にやっていたんだが…他人に使うのは初めてでな…」

「……と、いうことは…」

「まぁ、その姿も悪くはないぞ?
 皆にも伝えておくから、支障はないはずだ」

「…私は…」

「戻れないということだ」

その瞬間、固まった。


あの群青色の鱗。
立派に伸びた爪。
太く逞しい尻尾。

『悪いな、年頃だろうに…』
『いいのですよ、父上』
『こんな世で無ければ、お前にも好きな事をやって欲しいのだが…』
『今がとても充実しています。それに、父上に似たのでしょうか?
 強さを求めるのが好きなのです』
『そ、そうか…すまないな』
『もう、謝らないで下さいよ、父上』

そんな会話が思い出される。
女としての自分は捨ててきた。
父上は申し訳なさそうにしているが、自分はそれでよかった。
ここまで自分を育ててくれた父上に感謝している。
そして、憧れの父上に追いつこうと必死になっていたのに。

なのに。



「えぇーーーーーーー!!?」

場所も弁えず、声を上げる。

そんな馬鹿なという驚き。
そんなはずは無いという疑念。


それ以上に、妙な空虚感が支配していた。





(このままの方が面白そうだからな…)

魔王は、その姿をみて、意地の悪そうな笑みを浮かべていた。




========
だんだんとイタくなってまいりました長編連載小説の第六話!
セタたん(うゎ)がマコト君と早くも出会ってしまいました!!そして戻れなく…うふふ(マジキモ
後から読み返すと、魔王さんいい味出してます。こんなキャラもいいかもしれませんw
といっても、仲間内だけですが。ゲームでは、恐ろしいほど非人道的ですからね、言動にも魔王らしさがありますし。
仲間内では、そんな気を張っていられないのかもしれないと考えたら、こんなキャラが出来てしまいましたw



戻る