Fifteen Rebirth-生まれ変わり-



―――――鬼―――――


―――――最初に見た時、そう思った――――――――


―――――一瞬にして辺りは血に染まる――――――――




―――――あれぞまさしく、黒鬼―――――――




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Fifteen Rebirth‐生まれ変わり‐
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第四話








森。


全て、見渡す限りの深緑。



しかし今、それは闇に包まれ、月の光によってむしろ蒼と言えた。




「ここか…」


現在時刻 0:05分。

眼前に、灰色のレンガが積み重なっている。

そして、大きな門。

「ん?」
『…なんですかこれは…』


その、来るものを選び、侵入者を阻むはずの門。

その大きな門が、これ以上無い程口を空けて待っていた。



「…罠?」
『いや、それはないでしょう
 竜人のほうは、まだ私たちの存在すら知らないはずです』

それとなれば、話は一つ。
「じゃあ…」


言いかけた言葉を、スケイルがため息と共に続けた。
『…只単に、閉め忘れでしょうね…』


落胆する。

「閉めとけよ…入り口だろが…」
あまりのバカらしさに。


「…まぁ、なんにせよ楽に入れるからいいけどな」
『いいんですかそんなんで…』



無防備に開け放たれた門から、そっと中を伺う。



「よぉーし、まだ訓練をするぞー!!」


と、大声を張り上げているのは、赤い竜人兵士。
どうやら、小隊長辺りの位のようだ。

「部隊長〜…なにもこんな時間にやらなくても…」
「そうですよぉ〜…眠いっすよぉ〜…」

そう抗議の声を上げるのは、今朝、自分が倒した、あの竜人兵士。







ドクン


「あっ…」




急にあの事が思い出され、ふらついた。



そして、一歩前に出てしまった。



「バカモン!こんなときだからこそ鍛錬を行い、気を引き締めてだなぁ…ん?」



結果。



思いっきり、鉢合わせになった。




「てっ…敵襲ー!敵襲ーーーーーー!!!」
「う、うわわわわ!!」
「に、ニンゲン!?」
「と、とりあえず突っ込め!!」





「やっべ…!」
『まずいですよ!!一遍に4体だなんて!!
 一応退避もできますから、危なくなったら無理をしないで下さい!!!」

この状況では戦闘は避けられない。
仕方が無いのだ。

「分かった!!」
そう言って、剣を抜く。





ドクン



また来た。




ドクン


血流が、物凄い勢いで流れ始める。



先ほどから、コレだ。


少し違和感があるまま戦えるのか。




そんなコトを考え、しかし、その暇は無い。


「ニンゲンがぁーー!!」

そう叫びながら、一人目が剣を振り下ろす。




ドクン

(ん?)


コイツ、遅い。



こんなに遅くていいのか?




軌道が見える。


剣の、軌道が。


描くであろう、先端の軌跡が。



何とも無く、かわす。


「!?」

竜人の表情は判別できないが、目で分かった。
驚いていた。


マコトは横にいるというのに、未だに、正面を向きながら。



完璧に、隙だらけだ。



マコトは、かわしてすれ違い様、横合いに剣を振り抜く。



胸当てと腰当ての隙間。


「がはっ…!!」

脇腹。

竜人のそこに、深い傷を、それこそ臓器に届いたであろう傷を作った。

臓器にから器官に血液が入り、大量の血を吐く兵士。



(こんなに遅かったか?)
それを見ながら、マコトは呑気にそんなコトを考えていた。



ドクン


左。



既に構えて振り抜こうとしている。

かまわず、下げていた左腕を勢いよく上に振り上げる。


手首のスナップと言うオマケつきで。



モチロン、左にはショートブレイド。




ピュゥン





枝を持って振ったかのような、軽い空気抵抗の音がした。


その直後。



ブシュウ

「が…あ……っ!」



腰溜めに構えていた竜人の右腕は斜めに切断され、のど笛がぱっくりと開いていた。



ドクン

2mほど先にもう一人。



確認すると、右足のつま先に力を込めて蹴る。


左足で踏み込む。

その一つの踏み込み距離、2m。

腰溜めに構える。


右脇から肩の関節のラインに沿うようにして、左斜め上に剣を振り上げた。


「ぎ・・・っ!」
竜人の胴が、胸当てを無視してばっくりと開いた。





そして真横。


右に気配。



今丁度、上段へ振り上げようとしている。


それを見ながら、赤をイメージする。

(やっぱりこいつら…)
「…遅い」


思ったことが、口に出てしまった。

それを気にする暇もなく、右の掌をもう一匹の腹部へ伸ばす。



途端、高密度に圧縮されていた炎と言う名のエネルギーが、一気に破裂。


吹き出して、エネルギーは右ベクトルの推進力を得る。


それに流されるように、吹き飛ばされる。



壁に激突。


「がっ!・・・あぎ、ぎゃああああぁぁぁ!!!!!!」

そのまま、竜人の体は炎上。

高温に包まれてのた打ち回る。



そして、倒れこみ、動かなくなった。





それで、終わり。


4人の竜人は、息絶えた。

部隊長一人を残し。




「くっ…まさか…そんなばかな…撤退ー!!」



最早無意味な号令をかけながら後ろへと下がっていく。


追ったが、距離がありすぎた。



奥のドアを閉められ、鍵をかけられた。



「ちぃ!」
『進路を塞がれましたね…』




「別の道を回るしかないな…」
仕方がない。


『にしても、凄かったですねぇ…毎度驚かされますよ』
「ん、何がだ?」

『何がって、さっきの戦闘のことですよ』


「あぁ…」
先程の戦闘。
よく考えれば、1対4である。
それに対し、1の方が無傷。
驚きは当然の事。

ただ、マコトにとってはあまりに簡単な事だった。

「だってなぁ…あいつら遅過ぎて…」
『え?』

そう聞いたスケイルの反応は、驚きから来る疑問だった。

「え、って…あいつら遅すぎたろ?」
疑問にするほどでもない、と再確認するマコト。


『遅すぎるって…普通の人間よりよっぽど早い動きでしたよ、彼らも…』
それを否定する、スケイル。


『…え、遅く感じたんですか…?』
「ん、あ、あぁ…」

『どういうことでしょう…』
「え、まずいのか?」
『いえ、まずくはないですけど……』


とスケイルが悩み始めたので、とりあえず


「メチャクチャ速い鳥が居たからな、多分それでじゃないか?」

思いつくことで、その話をまとめた。




     #




「…なぁ、お前…出るのかい?」
心配そうに見つめる母親。

「うん、オイラも森の警備に回る事になったんだ。元々そのつもりだったしね」
そう言うのは、年若い竜人の兵士。

「そう言うけどねぇ…最近は森も前より危険になってきたって言うし…
 もしニンゲンに鉢合わせでもしたら…」

そう心配を続ける母親に、息子と思われる竜人が言って聞かせる。

「大丈夫だよ、森に警護をしてるヤツもまだ出くわしたヤツほとんど居ないんだからさ」
そう言いながら席を外す。

「それに…」

向かったのは、剣の立ててある場所。
その中にあった剣を引き抜く。

「ホラ、剣だってちょっとは使えるようになったんだぜ?
 だからさ、母ちゃんは安心して待っててよ」

そう言って、まだぎこちないが面斬りの素振りをしてみせる。

「あぁ…ホントにあの小さかった子がこんなに大きくなって…
 私ゃ涙が出てくるよ…」

息子の成長に感動する母親。

「ははは、大げさだなぁ母ちゃんは」

笑って流す息子。




そこには、親子の穏やかな会話が、雰囲気があった。







「……」

ドアの前で、複雑な表情を見せるマコト。

そのマコトに、スケイルが静かに語りかける。
『…別に、すべて殺さなくてもいいですからね?
 行く手を塞いでいる人は仕方ないですけど…相手も同じ感情がこうしてあるわけですし…』

『あまり無意味に殺していると、竜人側に恨まれますからね、必要以上に』



「……ありがとう、スケイル」

さりげない気遣いに、感謝を述べるマコト。


『い、いやそんな…そんなつもりもないですよ…!
 ただ、事実として述べただけですからね!』

そう言ってそっぽを向いてしまった。


「そうか、じゃあ、放って置こう。先も急ぎたい事だしな」
『そうですね、行きましょう』


そうして、そこを気にせずに廊下を進む。
その先には階段があった。

2階へ上がると、通路で話し込んでいる兵士が二人居た。

隠れる場所もないし、他の通路も通れなかったので引き返すのも意味はなく、すぐに気付かれたため逃げる事もできない。

「うわぁ!どうしてここに!?」
「下には他にも居るはずなのに…!」
驚きと少しばかりの恐怖に支配される竜人兵士。

「あぁ…そこを通して欲しいんだけど…いいかな?」

そこへかかる、場にそぐわない軽めの口調。
譲ってくれれば、と、淡い、本当に淡い期待を込めたマコトの言葉であった。

(何でこんなにふれんどりぃなんだよ!?)
(知らないよ…でも…通すわけにはいかないだろ、ホントに…)
(だよなぁ…とすると…)

「通せるわけないだろ!」
「ココでなんとしても食い止めるぞ!!」
竜人の、兵士としての、夢を抱いた若い者達の、大小様々の信念がマコトの期待を阻んだ。

「やっぱ、ダメ、だよねぇ…」
『そりゃそうでしょうね』

「しょうがないな。すまないが、手加減できるほど余裕はないんだ。
 無理矢理通らせてもらうよ」

そう言って、戦闘に入る。

その中の竜人達の動きは、やはり遅かった。



ドクン




そして、また心拍数が上がっていた。




     #




「むぅ……」

椅子に座り込んで考え込む竜人が一人。
その体は、他の竜人とは違って、彩度と明度を落とした紫色をしていた。


「どうされました?」
その雰囲気を心配した竜人が話しかける。


「いや、な。
 牢に閉じ込めたあの使い手…あのままでいいのかと思ってな…」

「と、申されますと?」

そう問いかけると、少し考えこんだ後、こう言った。

「…私は、これまで兵として生きてきた。
 上の命令に従い、任務をこなす存在。それは今も変わらない」

「だが、一方で、純粋に力を求める戦士でもあると自分では思っている。
 それは誇りであり、そう育てて頂いた父上にはとても感謝している」

「その所為か分からないが、あの牢に居る男を捕らえるときにした約束を破っているのが気にくわなくてな」

戦士として育て上げられた、コレまで。
その中で過ごすうちに、純粋に、対等な立場、対等な条件で戦ってみたい、そう思うようになっていた。
そして、生き方についても。

誠を貫く、という言葉があったが、それに順ずるものだろう。
それを曲げている現状が、たとえ上からの命令で仕方なくであれ許せないのだ。

「…すまん、言っても仕方がなかったな」
そう言って話題を打ち切る。
ココでそんな話をしても仕方がないのだ。


「……そんな貴方様方親子だから、私はお使えできて幸せと思っているのですよ」
穏やかな表情でそう答える部下。



「……ありがとう」
部下の気遣いはありがたかったが、やはりどうすることも、する決断もできずに悩みは変わらなかった。




     #




二階に上がり調べつくしたが、兵士詰め所と宝物庫しかなく、宝物庫も開かなかった。


そしてまた降りる階段があり、そこからもう一度一階に下りた。

「ん?この扉は…」

『あの最初に閉められた扉だと思いますよ』


他の扉とは少し形状が違い、見覚えもあったので確かだろう。

「そうだなぁ…鍵だけ開けておこうか」

『何かあったときに正門に直結してますからね、それがいいでしょう』

そしてその鍵を開けるだけ開けておいて、通路の奥に向かった。





ザッ

ザッザッザッ


ザッザッザッ



音がする。




分かる。

コレは、行進。


大勢が規律揃えて進む、足踏みの音。




突き当りの角を曲がる。



そこに居た。



大勢の、軍隊。


竜人の大群。

「フフフ…さすがにコレだけ居れば大丈夫だろう…かかれ!!」


それが、一斉に襲い掛かってきた。


『ま、マコトさま!!さすがにつらいですよ今度は!!』

ドクン


「…大丈夫だ、スケイル」

ドクン



ドクン


血流が増す。

それが脳にまで影響を及ぼし始めている。



『…ま、マコト、さま……?』


スケイルは、異変に気付いた。


マコトの目が、据わっている。
印象がまるで違う。

それ以前に、オーラが違う。

『(何なんですか。これは……?)』


ドクン

襲い掛かってくる一人目。

その斬撃を、首を少し傾げるだけでかわし、左手のショートブレイドを斜めに振りぬく。

「がはっ…!!」

それだけで、腹の隙間を切られた竜人は沈黙した。

「さて、やりますかね」

マコトは、面倒そうにそう告げた。




     #




赤。


見渡す限りの赤。



その中に、黒い影が一つ。
吐き気がするほどの異臭の中、血の海で直立していた。


『ま、マコト様…』

そう言ったスケイルの声は、これ以上ないくらいに怯え切っていた。


「…さて、あとはアンタ一人だけだな」

そう言って振り向いたその先には、赤い鱗を持った竜人。
あれほどの数を率いていた、部隊長だった。


「ま、まさか…あの数でカスリ傷とは…」
部隊長は、悟っていた。

最早既に、目の前のニンゲンの実力ははるかに自分を凌駕している、と。


それでも、挑まないわけには行かない。

先ほど傷を付けたのは、他ならぬ自分。


万に一つでも勝ち目があるかもしれない。


「貴様は…一歩たりとも通しはしない!!」
斬りかかる。

今正に剣が届くという瞬間、そのニンゲンが消えた。


気が付いたときには、横に居た。



先手必勝。
そう考えての行動だったが、それも無駄だった。


(最後まで頼りなかった、俺は…)

それが、最後にふと過ぎった、散っていった者達への謝罪の念だった。




     #




「何の声だ!!」


けたたましい絶叫を聞きつけ、駆けつけた竜人。


その竜人は、目も疑うような光景を目撃していた。


回廊が、見渡す限りの赤に染まっていたのである。



そして、その中に悠然と立つ黒が一つ。


紺のマントをまとうが、黒い、ニンゲン。


明かりも薄くなっている城内では、黒かった。

そのニンゲンが、顔だけ回してこちらを見る。



「……下がれ」

「セタ様!しかし……!」

「お前は下がっていろ、敵う相手ではない
 それよりも、他の者たちの避難と、この惨状の報告を!」

一瞬で実力を見切ったのか、そう告げて部下を下がらせる。

「……分かりました!」
そう言って下がっていった部下。

そして、その場に二人だけ、いや、三人となる。

「くそっ…よりにもよって父上が不在の時に…!……さぁ、こい!」


ロングブレイドを抜き、構える。

それを見るや、マコトは竜人へと踏み込み一つで距離を詰める。



(速い!)

下からの振り上げを剣で受け止める。

ニンゲンにしては予想外に、重い一撃だった。

(くっ……!)

(止めた!?)

先ほどまで、面白いほどに決まっていた斬撃を止められた。
その事が、マコトの中で変化を呼び、意識をはっきりとさせる事ができた。

互いに受けたまま数秒均衡。

だが、剣のスキル自体は、セタの方が上だった。

剣の向きを斜めにし、力の方向に抵抗しないように受け流す。
案の定、元は素人であるマコトは、あっさりと流された。

『マコトさま!!』

がら空きの腹部。

(もらった!!)

セタは、そこに渾身の胴切りを放った。




ドクン


その動作の一瞬、片手、マコトの右手が見えた。

(腕を犠牲にするつもりか…だが無駄だ!!)


まかわず振り抜くセタ。

それが間違いだった。




「……火炎」

そんな言葉が紡がれ、その右手から圧縮された炎が放出される。

その圧力で、さすがの竜人の力でも押し切れず、とどめられた。

「ぐっ!!」
それだけではなく、利き手への熱気で一瞬動作が滞る。

片腕となったマコトの左手のショートブレイドが振り下ろされる。


とっさに構える。


が、幾ら鱗で守られているとはいえ、高熱を受けた腕は、一瞬だがいつもの握力を出せなかった。





ガキィン



ロングブレイドが弾かれた。


その反動でか、セタは尻餅をついた。



そこに、両手で振りかぶったマコトの振り下ろしが迫る。




死ぬ。


そう悟った瞬間は、プライドも何もない。



浸隠しにしてきた、自分の本当の部分が出てきてしまった。


「………い、いやっ……!」




ドクン



(あ)


(あ、や………か………?)

ドクン


その声に動揺し、一瞬腕が止まる。


その隙を逃さず、セタは尻尾を振るった。


脇腹に入る。

「ごほっ……!」
予想外に重い尻尾による攻撃。
竜人特有の攻撃で、息が詰まった。

(やられる!)

そう思ったが、セタは後ろに下がっていった。

「次は…次こそは、お前を討つ!」

そう言って踵を返した。


「城内に残っている兵士たちは全員速やかに撤退せよ!!」

そう全体に声を掛けて。



全員撤退した城内は静まり返った。

「……ふぅっ…!」


一気に気力が抜けたようだ。
その場に座り込む。


「はぁ…はぁ…はぁ…」
息が今まで以上に荒い。

『マコト様…』
心配そうに見つめるスケイル。

「…スケイル、すまない…こん、な…情けな、くて……」
息切れしながらそう答える。

『いえ、よくやりました…上出来ですよ、あれだけできれば』
淡々とそう、現時点での実力からの想定を超えた事を告げる。

『(正直、強すぎて何を言っていいやら分かりませんけど…)』

そんな言葉は心にしまって。

そう、そうである。
現時点でのありえないほどの強さを見せ付けたのだ。


この1日で何が変わったのか。

それとも、何か元から秘められていた力なのか。



全く分からない。

「ありがとう、スケイル」

その本人は、何度目か分からない感謝の言葉を述べている。

「これで、エージスさん、だっけ?
 救出できるな」

『え、でも、牢に居ると思いますので、鍵が無いと…』

「ほらそこ」

そういって指差した床には、あの竜人が落としたであろう鍵があった。

『あ、ホント、って……なんですかソレ…』


何か理不尽な悔しさを感じるむなしさだった。




そして、牢で見つけた男を背負って、リーリルへと戻っていったのである。
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メンドくなって同盟のテキストのソースをコピペし始めた長編連載小説の第四話。
いつだか言ったように、やたらと強くなってます、彼。
何だか目がおかしくなっている模様ですが、実際はどうなのでしょう。
その辺りはまだ内緒、ということで…(何



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