Fifteen Rebirth-生まれ変わり-



―――――誰?―――――


―――――分からない――――――――


―――――こんな事、初めてなの――――――――




―――――あなたは、誰?―――――――




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Fifteen Rebirth−生まれ変わり−
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第三話




「……なぁ…」

「はい?」

「この川…渡れるか…?」


そう尋ねた男 マコト。

『流れは速いですけど、大丈夫だと思いますよ』

そう答えるのは、男の隣に薄く浮かぶ竜 スケイル。


二人(?)の目の前には、急流と言うより濁流が流れていた。


「大丈夫なんだろうな…」
『私の特殊能力を甘く見ないで下さいよ?
 水中で呼吸が出来るんですから、流れが速くても前に進んでいれば向こう岸には渡れますよ』
「着いたらどこか分からなくなるほど流されそうだがな…」

一旦サーショに戻る予定だったが、今はサーショ近くの大きな川に来ている。
あの森に向かう途中の川とは別の川、より流れの速い川であり、何より橋が壊れていた。

それが、余計にスケイルの興味を引いたのだ。

水中移動は、3匹のトーテムの中でもスケイル特有の能力である。
スケイルにとっては、自分特有の能力を実感してもらうチャンスなのである。

「…まぁいいか、さっさと行こう」
『えぇ、行きましょう!』

そして、一歩川に踏み出した。




     #




「…はぁ…はぁ…」
『あ、あの…大丈夫ですか?』

丘をヨロヨロと進むマコトに、心配そうに声をかけるスケイル。

「頭が真っ白になった…」

川は意外にすんなり渡れて、驚いたものだった。
が、問題はその後だった。

「何で蛇が火を吐くんだよ…」
『色々居ますからねぇ』
「速すぎて見えなくなる鳥は俺の世界には居ないんだけど…」

森には、火炎を使う大蛇や、やたら速い動きの海鳥が沢山居た。
理力の火炎で乗り切ったが、最後の辺りは大蛇を見かけたら逃げていた。
鳥からは逃げる事が出来なかったが。

敵に負わされた傷と大蛇に遭ったときの全力疾走が相まって、先ほどまで意識が朦朧としていた。
それでも大分はっきりとしてきたが。

「治癒を覚えておいてよかった…」

シズナを追いかける前に、フォースの『治癒』を購入しておいたのである。

あまり多用できる理力量は今無いのだが、あるに越した事はない、と思ったのだ。

『すみません…』
「は?」

何かと思えば、スケイルが突然謝ってきた。

『私が…川を渡ろうとか言わなければ…』

そう言って塞ぎ込む。
調子に乗っていた。
只単に、新しい、興味を引かれる主人に、自分の特別さを感じて欲しかった。
ただ、それだけだったのに。

それを見て、マコトはため息をついた。

「あのなぁ…行くとお前が決めたのか?
 違うだろ?俺が決めたんだ。俺がまだ至らなかっただけだ。
 お前が気に病む必要は無い」

諭すように、むしろそう考えたことを責めるように口調を少し強めて言った。
スケイルは、涙目(に見えるだけだが)でこちらを見ていた。


その後、微笑む。

「お前は、進言しただけだ。悪い事じゃないんだぞ?」
『……ありがとう、ございます…』

聞きながらスケイルは、ずるいと思った。
何故、こういうときに口調が変わるのだろう。
何より、この余裕は…

「さて、行くか。丘の上に町があるみたいだし」
『あ、はい!』




     #




「ここか…」
「井戸の前に居た人の話では、ここですね」

ある一軒家の前。
看板が掛かっている。

[道具屋 ユーミス]
[理力の水、ついに入荷しました!今回は特別価格の500シルバです!
ご購入はお早めに!        店主 ユーミス]

「ごめんくださ〜い」
『早!』

しかし、店内を見渡しても誰もいない。
(留守、か…?)
そう思ったが、奥から声がする。

「…こないのね?」
「……ん、……さんは………みたい
 ……ないよ」
「……わ、……丈夫なのね…」

なにやら話し声がする。
声から言って、二人らしい。
まぁ、独り言を言っているのならただのイタイ人だが。

その後暫く話し声が続いていた。

「じゃあ、とりあえず店を閉めてくるわね?」

そう聞こえて、パタパタと足音が聞こえた。
そして、奥の扉が開く。


出てきたのは、女性。
灰色の髪が美しい、30は過ぎているだろうが魅力を有り余るほど持っている女性。

「え…?」
その女性の笑顔が、少し変わった。

「え、あ、どうも…」
マコトは、その反応に対する動揺がそのまま言葉に表れてしまっていた。

「あ、ご、ごめんなさいね。お待たせしてしまって…
 どうぞ、ごゆっくり見ていって下さいね」
そう言って笑顔を作る女性。
少しぎこちなかったが。

(何だ…あの反応…)
『変な反応しましたねぇ…』

(まぁいいや、とりあえずあの事を聞いておこう)
『そうですね』

「あの、すみません…こちらに、予言者の方がいらっしゃるとお聞きして来たのですが…」
「予言者…あぁ、娘のウリユのことですね?
 奥の部屋におりますので、お話はどうぞご自由に…」
「ありがとうございます」
「…にしても、橋が壊れているのにここにいらっしゃるなんて…
 どうやって此処まで?」
「川を渡って、です」
「か、川ですか…お、お客様も変わった方なのですね…」


(今一瞬、凄い顔したよな)
『分からないでもないんですけどね』
(だろうなぁ…あの川すんなり渡れるのが自分で信じられないからな)
『水の中で息が出来るから、おぼれる心配自体が無いんですけどね』


そんなどうでもいいことを考えながら、奥の部屋の扉を開けた。


ガチャ。

「…こんにちは〜…」

「……えっ?」

部屋に入った途端に、驚きの声が上がる。
その主は、少女。
先ほどの女性と同じく、灰色の長髪。

しかし、それ以上に気になったのが、異様なまでに白い肌の色だった。

「あの、誰…?」
「あ、えっと、俺は……」

先ほどの反応に気をとられて、急に来た問いかけに戸惑ってしまった。
そして、その間に―――――


「ぅ……お、お母さ〜ん…」

母親を呼ぶ事になった。

「どうしたの、ウリユ?」
「こ、この人、誰…?」

(?)
『初対面で分からないのは普通だと…』
そう言ったスケイルの言葉は、その後の言葉で遮られた。

「えっ?
 人と会うときは会う前から名前が分かってるじゃない」

「おぉ」
『凄いですねぇ』

「わ、分からないの…どうしよう…」
「まぁ…ウリユに分からない事があるなんて…
 あの、失礼ですが、お名前は…?」

「あ、マコトといいます」

「マコトさん、ですか…
 それで…ウリユ、マコトさんが誰だか分かる?」

「ううん…分からない…
 あの、マコトさんは、お兄さん…?それとも、お姉さん…?」

「あぁ…分からない?」
(声じゃ分かり辛いのか?)

少女の眼球が光を照らし出していないため、目が見えないことは分かっていたが…
リクレールのときもそうだったが、自分の声はそんなに性別を判断しにくいのか。
そう思うと、一人の男として、少し空しく感じてしまう。

「マコトお兄さん、ですよね?」
「そっか…マコトお兄さんだね…
 お兄さん…よかったら、少しお話してもらっても、いい、かな…?」

「ん?話?」

「うん、お話。
 どこから来たのかとか、聞きたいから…」

「いいけど…俺もまだよく分かってないんだが…」

「…マコトお兄さんのことは、何も見えないし、分からないの
 今までこんな事なかったから…だから…お話したくて…」

「……分かった、いいよ」
『マコト様!?なに言ってるんですか!』

「え、いいの?」
「いいのですか?旅でお忙しいでしょうに…」
『そうですよ、まだ何も分かっていないというのに…!』

「良いんですよ、まだ時間もあることですし
 聞きたい事もありますしね」

「そうですか…では私はお茶の用意でも…」
そう言ってユーミスは出て行った。

『……』

「あ、あのね…聞いていい…?」
「どうぞ?」
「マコトお兄さんって、どこから来たの?」

少し考えた。
どこから。
あの世界の事を言ってもわからない。

「そうだなぁ…この世界の外から、ってトコかな?」
「やっぱりそうなんだ…」
「やっぱり?」
「マコトお兄さんが来るのが分からなかったから、どこから来たのかな、って思ったけど…
 やっぱりそうだったね」
「ふうん…」
「ねぇ、旅のお話聞いてもいい…?」

「ん、あぁ…でもどうして?」

「うん、えっとね…予知っていうのは、私の身の回りのことしか分からないの…
 自分の力は、自分にかかわりがある部分だけ、ってことだと思うんだけど…
 だから、私の知らないお話、いっぱいして欲しいな、って…」

「はい、お茶が入りましたよ
 どうぞ、マコトさん」

「あ、ど、どうも…」

「じゃあ、何話そうかな…」

そして、たわいの無い話を1時間近く話し込んだ―――――――――




     #




『全く…只でさえ少ない時間なのに…』
「そう言うなよ、スケイル」
『そんなコト言って、もう日が変わりそうじゃないですか!!』

現在時刻、23:32分。
あれからマコトたちは、一旦サーショに戻り、そこからリーリルに向かった。
そこで、竜人砦の話を聞き、そこに向かっているところだ。

『ホントに…』
「…なぁ、スケイル…」
『はい?』
「あの子は、眼が見えないんだ。
 その上、病でまともにベッドを離れるのが難しい。
 そんな辛さ、俺たちに判ってやれるのかな…」
『あっ……』

普段、眼は見えていない。
それが日常生活でどれだけ不安か知れない。
それを思うと、断る事は出来なかったのだ。

「もちろん、この旅の目的も忘れたわけじゃない。
 でも、あの時俺に出来る事って言ったら、あのくらいしかなかったんだ…」
『…そうですね…それに、元々はシイルに行ったのだって私の…』
「スケイル、それは言わない約束だろ?」

そう言って、マコトは優しく微笑んだ。

『は、はい…!』

慌てて返事をするスケイル。
何を慌てているかは知らないが。

「お、見えてきたな」

目の前には、巨大な砦が聳え立っていた。



ドクン



『覚悟は出来てますか?』
「…あぁ、大丈夫だ」



ドクン



鼓動の音が強く聞こえる。


少し前にもあった。


『・・・大丈夫ですか?』
「大丈夫だよ、スケイル」




血流量が明らかに増えている。


何なのだ、この感覚は。




そんな不思議な感覚を抱えたまま、砦へと進んでいった。

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そろそろ苦し紛れな長編連載小説の第三話。
だんだんとマコト君のプレイボーイっぷりが発揮されて来ましたw
しかも厄介な事に、彼は相当の朴念仁です。要するに鈍感にも程があるということです。
これが遺憾なく発揮される事を個人的に切に願いつつ…(爆笑



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