Fifteen Rebirth-生まれ変わり-



そんなつもりは無かった。

まさか、轢かれてしまうなんて…

その結果だけ左右でき、過程を決める事は出来ない私。

こんなつもり、無かったのに―――――






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Fifteen Rebirth‐生まれ変わり‐
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第一話





冷たい…


感覚が無い…



地面に足が付いていないという浮遊感。


そこから来る不安感。



そしてそれを助長するように、暗闇と冷たさが加わっていた。



(俺…どうして…)


『意識の海を漂うそこのあなた…私の声が聞こえますか…?』

浮かんだ疑問を遮るように、透き通った女性の声が聞こえた。
どこかで聞き覚えがある。
そしてその直後、痩身の女性が現れた。

銀色の髪と、透き通るような白い肌。
そしてその額には、角が生えていた。

(はぁい、聞こえてますよ〜…)
不安感を紛らわすように、努めてふざけた口調で答えた。

『私の名前はリクレール…
 トーテムに呼び覚まされし、全ての生命を導く者です…』

(…?と、トーテ…?)

『トーテムです。』

(そうか…で、俺に何か…?)

『あなたに、シルフェイドの世界に降り立っていただきたいのです…』

(シルフェイド…?)

『私の創造した世界です…』

(…なんかあったみたいだな…)
声の調子で、それが分かった。
それ以前に、こんな見ず知らずの人間に頼む、と言うことはそういう事なのだが。

『……』
それにリクレールは答えない。

(…分かった、今は聞かないよ)
事情があるのだろう。
それこそ、簡単には言えないような。
それに突っ込んでいたら、いつまでも話が進まない。

『ありがとうございます…
 貴方に降り立っていただく前に、いくつか聞きたいことがあるのです…』

(どうぞ…?)

『まず、あなたの性別を教えてください…』

(…声じゃ分からない、てか声も出てないか…男だ)

『貴方は男性なのですね…
 次に、貴方の名前を………』

(名前…?えぇと…たしか…)
そこで考えこんでいると、ふと何かがよぎった。
(マコト…そうだ、マコトだ…!)

『マコトさん、ですね…』

そこで、別の記憶まで甦ってきた。
(ちょっとまて…俺は…確か、轢かれて…?そうだ…俺は…俺は……!!)
あの時の衝撃を思い出して身震いする。

『……』

そして、聞き覚えのある声。
(そうだ…アンタ、だよな…?轢かれる前に聞こえた声は…!)

彼女が顔を俯かせる。

(俺は…あの後どうなったんだ…知ってるのか…!!?)

『……』
押し黙ったまま。

(なんとか言ってくれ…頼む…!)
焦燥感が募る。

『貴方は…あの事故で…
あの世界を離れ、こうしてココに居るのです…』

(!!……そう、か…)

あの世界を離れた、と言うことは、すなわち、元の世界で死んだ、と言うことなのだろう。
絶望感が襲う。

(綾香…)

最後に見たあの涙が、頭の中に張り付いている。
あの顔をさせたまま、別れてしまった。
そんな後悔に襲われた、が。

(仕方ない…なってしまったものは…
 それより、“助けて”って言ってたよな?その事なのか?)

『そうです…』
とても辛そうな表情をする。

(気にしないでくれ、アンタの所為じゃない
 むしろ、こうしてまた人と話せるのが救いなんだ)
正直なところ、もう誰であろうと、そんなつらい顔を見たくない、と言うのが本音だった。

『分かりました…
 では、最後にもう一つ、選択をしてもらいます…』

(選択…?)

『はい…ただ降り立つわけではなく、きっと過酷な旅になるでしょう…
 それら全てを切り抜けていただかなくてはなりません…
 そのために、私がしてあげられる事は、貴方に力を授ける事だけです…』

(ふむ…)

『そこで、私の作り出した神獣、“トーテム”の力を一つだけ授けましょう…
 ただし、3つの力の種類がありますので、自分に合うと思った者を選んでください…』
そこまで言うと、彼女の周りに3つの光が輝きだした。
やがてそこから出てきたもの。

一つは、狼のような姿をしていた。
『一つ目は、“クロウ”です…力の化身のトーテム…』
『我を宿せば、筋力や敏捷、生命が伸びやすく、主に肉弾戦で有利になる
 また、持てる荷も筋力に関係するので、荷物を多く持てる辺りも利点だ』

次は、鳥の姿をしている。
『次に、貴方の翼になりえるトーテム、“フェザー”です…』
『私を宿す事になると、敏捷を中心に、バランスよく能力が上がります。
 クロウほど力はありませんけど、フォースもそれなりに使えますよ。
 力が無いので、荷物の量が減るのが難点でしょうか…』

最後に…?
『最後は、竜の化身、“スケイル”です…?どうしました?』
『あ、えっと…な、何でもないです…』

(…?)

『あ、あぁ!え、えっと…わ、私を宿せば…知力と意志力が上がります
 そのおかげで、フォースの威力や覚えられる種類が増えます
 そして、私の宿したときだけ、覚えられるフォースの数が5つになります』

(…決めた!)

『…え?(早…)』

(えぇとそこのなんてったっけ…?スケイル、だったか…?)
『は、ハイ!!』
呼ばれたスケイルは挙動不審である。

(ソイツにするよ)

『…いやに早かったですね…理由をお聞きしてもいいですか…?』

(俺は難しい事はよく分からないんでな
 フォースとか言われてもよく分からないし…
 とりあえず、珍しげだったからな、面白そうだと思ったからだ)

『!!?』

『ふ…ふふふ…面白い方ですね…貴方と言う人は…』

(笑ったな、初めて…その方がいいと思うぞ)

『え、あ、そ、そうですか…?』
『ちょっと待ってください、私を選んだのに無視しないで下さいよ!!』
(あ、悪い悪い)
[何なのだこの雰囲気は…]

『コホン…それでは、貴方の選ぶトーテムはスケイルですね…
 それでは、残りの説明は降り立った後にしましょう…』

そういって誤魔化した。

そして、光に包まれた。




     #




「…ここは…?」
『マコトさん、見えますか?リクレールです…』

「あぁ、見えてるぞ」

(私も見えてますね!)
「うおっ!!」
隣に居た。
透けていて、宙に浮いている。

『ここは…私の創造した、名もない天空大陸…
 人々が平和に暮らせる世界…の…はずでした…』

「?違うのか?」

『…まもなく、この島に災いが起ころうとしています…』

「災い…?」

『何が起こるかは分かりません…しかし、15日後に何かが起こる
 …それだけが私に分かっている事です…』

「予知能力…か。まぁ信じないワケでもないな…
 俺をココに呼び寄せたワケだし…」

『そこで貴方に頼みがあります…
災いの元を見つけ出し、それを何とか阻止していただきたいのです…』

(それか、助けて、てのは…)

『ただ、このままでは難しいので、貴方に3つの力を授けます…
一つ目は、先ほどの“トーテム”の力…
それによって、貴方は普通の人間とは比べ物にならない力を手にする事が出来るでしょう…』

「肉体強化、か…」

『二つ目は、15個の命…
 戦いで命を落としても、私が15回まで新しい体を作り出してあげましょう…』

「いいのか、それ…」

『それほど大変だ、と私は思うのです…できる限りのことですから…』

「そうか…」

『そして3つ目は、この世界での言葉、です…』

「あ、必要だもんな…英語とかみたいに覚える必要は無いってコトか」
(エイゴ…とはよく分かりませんが、新しい言語を習得している時間も有りませんしね)

『身勝手だとは思っています…
 これまでの私の願い、聞いていただけますか…?』
そう言って顔を伏せる。

「聞くよ、アンタは命の恩人だ」

『ありがとうございます…!
 貴方にお願いして、本当によかった……!』

「おいおい、まだ何もしてないぞ俺は…」

『あ、そうでしたね…
それでは…貴方の無事をお祈りしております…どうか…トーテムのご加護があらんことを…』

そういうと、彼女は消えていった。
最後に見せた笑顔に、少し影があったように見えたが…

(さて、初めまして、これからよろしくお願いしますね、マコト様)
「あぁ、よろしく」
(私と共に世界を救いましょう!!マコト様なら出来ますよ!!)
「あ、ありがとう…(何か楽しげだな…)」


こうしてマコトは、トーテムのスケイルと共に、世界を救う15日間の旅に赴く事になった―――――




     #




『これでいいのだな…』
『…っえぇ…』
『泣いていてもしょうがないだろう、リクレール…』

『私は…あんないい人を……あんな事に…』
『つらいだろうが、この世界を救うためだ…』

『私は…私の所為で…こんなつらい事に…』
『貴方もつらいのだろう…自分を責めることはない…祈りが届いた結果なのだ』



『過程に関与できないのは、貴方のつらいところだろう…』

『ごめんなさい…マコトさん…ごめんなさい……!』

祈りの結果としてとはいえ、誠を事故に遭わせてしまったこと。
それを思い後悔し、しかしそうせざるを得ない。
それほどまでに力を失ってしまった自分。



それら全てが彼女に重くのしかかる。






彼女は、ただ涙を流す事しか出来なかった―――――



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大変暴挙な長編連載小説の第一話。
前回のは、ある通りプロローグ的な、主人公を説明する回でした。
私の中では、リク姉さまは可愛そうな人なのだと思っています。
それが伝わればなぁ…とか真面目なコト言ってごまかしたり…w



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