Fifteen Rebirth-生まれ変わり-



―――――助けて――――――

―――――私たちを―――――
―――――私たちの、世界を―――――――



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Fifteen-Rebirth‐生まれ変わり‐
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〜プロローグ〜





「……と………いよ」


声が聞こえる。

誰かの声が。



「…ょっと……なさいよ」



上手く聞き取れない。

何だろう。




「ちょっと、起きなさいって言ってんのよ!!!!」

ドゴォ!


「ごっほぁ!!」
腹部への衝撃で意識が戻る。
その痛みにもだえながら、暫く動けないでいた。
そして痛みが引いた頃、ようやく起き上がって目を開く。

目の前に居たのは、一人の少女。
端麗な顔つき、細い黒髪が腰辺りまで伸びている。
目は黒味掛かった赤で、強さに溢れている。
そのくせ、両即頭部の髪の毛が少し横に跳ねている辺り、印象とのギャップが伺える。

彼女の名前は、瀬田 綾香。
彼の幼馴染。どのくらい前からの腐れ縁なのか彼自身も忘れたくらいである。
叩き起こす真上からの振り下ろしは絶大な威力を誇る。

そしてベッドで叩き起こされた男の名は、片瀬 誠。
先ほどまで苦痛にもだえていた男。
綾香の肘鉄に耐えるほどの防御力の持ち主。
そしてこの物語の主人公である。

「いってぇなぁ〜…内臓どれかつぶれたぞ…?」
「内臓がつぶれたら血吐いてるわよ」
「う…もう少し別の方法があっても…」
「休日だからって11時まで寝てるアンタにかける情けは無いの」
ガサツさを皮肉ったつもりだったが、逆にばっさりと切り捨てられた。
これもいつもお決まりのやり取り。
「ちなみに、聞いときましょうか?他の起こし方っての」
「ん〜、やさしく揺するとか…」
「ずっと前にそれで無駄な時間過ごして、結局今朝みたいになったから却下」
「(やってたのか…)何か鳴らすとか…」
「アンタの目覚ましよりデカイ音出すのは至難の業ね」
「(確かに…)……」
「ホラ、結局無かったでしょ?さっさと起きる!」
「……寄り添って耳元で囁くとか…」
「……っ死ね!!」
綺麗に鳩尾(みぞおち)にボディが入り、数秒間意識が飛んだ。

もそもそ
少し緩慢な動きで着替える。
「まったく…昼からにしといて良かったわよ…!」
そう呟く綾香は、部屋の外のドア前。
どうやら約束事をしているようだ。
その肝心の誠はというと、着替えをしながらぼうっと今朝の事を考えていた。
(あの声…誰だったんだ…?)
今朝、叩き起こされる前に聞いた、あの声。
夢の内容はぼんやりとして覚えてないが、やけにはっきりと聞こえたあの声だけは覚えている。

――――助けて――――

「…なぁ」
「え、何?」
「さっき起こすときに“助けて”とか言ってない、よなぁ…」
「何ソレ。何をアンタに助けを請う事があるのよ」
「だよなぁ…」
「?何なのよ一体…」
普段ならあまり気にしないのだが、何故か気になって仕方が無かった。


     #


(やっと見つけた…)
(本当に…あの男なのか…?)
(そうは見えないだらしなさで溢れてますねぇ…)
(私もそう思うが…)
(そう、なんですか…?)
(あれ見てそう思えるあなたが素晴らしいですよ)
(外見や外側の面ではわからないものよ)
(そういえばそうですねぇ…誰かさんも昨日の夜うつらうつらしてましたしひぁっ!)
(…鳥肌ってどんなものか見せてもらおうかしら?)
(む、毟ってから言わないで下さいよ……)
(もう時間が無い…夢の中もだめだったし…もう少し強く願うしかないわね…)

「さて、朝飯も食ったし、行くか!」
「昼、でしょ?」
「う…ま、まぁその辺は置いとけ」
「そうもいかない、と言いたいけど、しょうがないわね」
そんなやり取りをしながら、誠の家の前まで出てきた。
11月の半ばにもなれば、結構肌寒い。
「暇なら買い物に付き合え、だったな」
「ここまで出てくる前に確認すべき事よね、それ」
「(聞いてない)で、何買うつもりなんだ?」
「別に何も考えてないわよ」
「へ?」
「暇だったから出てみるだけよ」
「…さて、また寝るか」
そう言って踵を返そうとした背中に手が当てられる。
まだ力は入ってないが、物凄い圧力だけは感じる。
「…行くわよね?」
「……はい」
いつの間にそんな技覚えたと言いたかったが、嫌な予感がしたのでやめておいた。


     #


歩いている途中で、自分の隣を見る。
平然と歩いている。
隣でこんな事を考えているのが馬鹿らしくなるくらい。
(何平然としてるのよ…もうすぐアンタの…)
そう、もうすぐ、彼女にとって特別な日がやってくる。
それは、彼にとっても特別な日のはずなのだが…
(いっつも忘れてるのよね…)
そう、12月の初めは、彼の誕生日なのだ。
あと半月、というところか。
(全く…なんで私がここまでやってあげてるか判って…)
ちらと横を伺う。
(…ないわねあの顔は…)
ふぅ、とため息をつく。
「…どうした?疲れたのか?」
「…っ!な、何でもないわよ!」
そのくせ、こういう些細な事に気が回る。
このギャップさえなければ…
(私がこんなに…って何考えてるのよ!)
頭に浮かんだものを振り払う。
実は綾香は、ウィンドウショッピングをしつつ、彼の反応を見ながらプレゼントを選ぶつもりなのだ。
大抵上手くは行かないのだが。
趣味がゲーセン通いの彼にとって、その前を通る事はすなわち計画の破綻である。
彼の母親は、その辺を分かっているらしく、その場面では彼のサイフの中に殆ど入っていない。
そのあたりは彼の母親に感謝するのみである。
彼の母親の気遣いを無駄にしないためにも、細心の注意を払い臨まなければならないのである。


     #


(で、結局こうなるのね…)
効果音とBGMと歓声で起こる喧騒に包まれながら、綾香はため息をついた。
今彼は、とある格闘ゲームの台の前にいる。
そして彼とその向かいの台の周りには、人だかり。
それは数分前―――――

「おっ!?丁度いいトコに!」
「?」
「おい誠、久々にやろうぜ!」
「え、あ、あの!!」
「いーからいーから。みんなオマエが来ないとなんかやる気でなくてよぉ!」
「あ、あの、岸さーん!!?」

そして現在に至る。
この地元のゲーセンでは、彼はちょっとした有名人である。
“史上最強のド素人”として。
格闘ゲームにも色々な種類、タイトルがある。
そのそれぞれで、微妙に違うのだ。
それを気にせず、彼は全ての台でそれなりにやってのける。
実際、やっている本人よりも、こうして何気に見てきた自分の方が何故か詳しくなっている。
それでも極めている人間には及ばないのだが、極め損なっている、要するにツメが甘い人種には勝てるらしい。
そして彼のプレイ中の動作も珍しがられている。
彼はどんな結果、どんな状態に追い込まれようとも、終始無表情なのだ。
経過に翻弄されて感情的になる事がないのである。
なので彼はその結果如何によって、後の機嫌を変えることは無い。
ソレも含めて、評価できるところではある。
趣味自体が自分にとって好ましいものではないのだが。
(それに、もう買ったし…)
実はその前にドサクサに紛れてプレゼントは買ってある。
(喜んでくれるといいなぁ…)
その様を想像して微笑む綾香。
その後ろで、彼が珍しく岸さんに勝ったようだった。


     #


その帰り道。
誠は、やけに嬉しそうな様子(傍から見れば分からないが)の綾香を見て不思議がっていた。
(何かしてたかな、コイツ)
自分としては、半ば強制とはいえ、またゲーセンにいった事を愚痴られるかと思っていたのだが。
不思議と何も愚痴を言わずに、胸に抱いている買い物を見て微笑んでいる。
(そんなにいい買い物でもしたのかコイツ?)
まぁ、なんにせよ、珍しく愚痴られなかったのは彼にとってありがたい事なのだが。
「あ、赤だ」
歩行者信号が赤になっている。
当たり前だが、立ち止まった。
「ふぁぁぁぁ…」
今日は疲れた。
そんなコトを思いながら、あくびをした。

―――――助けて―――――

「!?」
いきなりの事であくびをやめる。

―――――助けて―――――

夢で聞いた声と同じ声。
(どこだ…どこから…?)
周りを見渡しても、殆ど人はいない。

と、左に動くものがあった。



それは、黒。


―――――助けて―――――


風になびく黒髪。



―――――私たちを―――――





それは見間違おうはずもない、綾香。



あの彼女が、信号を無視して前に進んでいるのだ。





「っこのバカ!!」



既に車が右から来ている。



間に合え。

走る。



―――――私たちの世界を―――――





残り10メートル。


ドン

綾香の背中に体当たりをする。



彼女に力のベクトルが伝わり、その代わりに自分の勢いはなくなる。




制動がかかった自分の体を再び動かす時間は、もう無かった。





突き飛ばされた綾香が振り向いて叫ぶ。






「誠!!!」





綾香の声と、けたたましいブレーキ音。
ソレが、意識が途切れる前に聞いた、最後の音だった。




右から圧力がかかる。
体が左へと向かう。



体が浮く。




目の前の景色が分からなくなる。



体中の骨が悲鳴を上げている。





「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



その過ぎていく景色の中で、彼女の涙だけがはっきりと見えた。


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Webに出すのは初めてという、これまた暴挙な長編連載小説。
設定まで考え、自分としては事前準備も結構きっちりしていたのだが、進まないことこの上ない…(滝汗
実は、ある目的のためだけにこの小説を始めたという、煩悩極まりない作品でもある。
…それは、後々分かる事だとは思うが…w



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